2016年 - VECサロン

村上 正志

VEC事務局長 / 株式会社ICS研究所 村上 正志

VEC(Virtual Engineering Community)事務局長

  • 1979~1990年まで、日本ベーレーのシステムエンジニアとして電力会社の火力発電プラント監視制御装置などのシステム設計及び高速故障診断装置やDirect Digital Controllerの製品開発に携わる。
    *関わった火力発電所は、北海道電力(苫東厚真、伊達)、東北電力(新仙台、仙台、東新潟)、東京電力(広野、姉ヶ崎、五井、袖ヶ浦、東扇島)、北陸電力(富山新港)、中部電力(渥美、西名古屋、知多、知多第二)、関西電力(尼崎、御坊、海南、高砂)、中国電力(新小野田、下関、岩国)、四国電力(阿南)、九州電力(港、新小倉、川内)、Jパワー(磯子、松島、高砂)、日本海LNG など
  • 1990年、画像処理VMEボードメーカーに移籍し、大蔵省印刷局の検査装置や大型印刷機械などのシステム技術コンサルティングに従事。
  • 1995年、デジタルに移籍し、SCADA製品の事業戦略企画推進担当やSE部長を務める。(2004年よりシュナイダーエレクトリックグループ傘下に属す)また、1999年にはコーポレートコーディネーション/VEC(Virtual Engineering Company & Virtual End-User Community)を立ち上げ、事務局長として、「見える化」、「安全対策」、「技術伝承」、「制御システムセキュリティ対策」など製造現場の課題を中心に会員向けセミナーなどを主宰する。協賛会員と正会員のコラボレーション・ビジネスを提案し、ソリューション普及啓発活動を展開。
  • 2011年には、経済産業省商務情報政策局主催「制御システムセキュリティ検討タスクフォース」を進言、同委員会委員及び普及啓発ワーキング座長を務める。
  • 2015年、内閣官房 内閣サイバーセキュリティセンターや東京オリンピックパラリンピック大会組織委員会などと交流。
  • 2015年、株式会社ICS研究所を創設。VEC事務局長の任期を継続。世界で初めて制御システムセキュリティ対策e-learning教育ビデオ講座コンテンツを開発。
  • 現在活動している関連団体及び機関
    ・公益財団法人日本適合性認定協会JABの制御システムセキュリティ技術審査員
    ・経済産業省の産業サイバーセキュリティセンター講師
    ・日本OPC協議会 顧問
    ・制御システムセキュリティ関連団体合同委員会委員
    ・日本能率協会主催「計装制御技術会議」企画委員

2016年

経済学がおもしろい

事業戦略を考える方は、経済の過去、現在、未来を思考して、国の政策、海外の政治政策などの情報から関係する産業界の情報、そして顧客情報、技術情報、法規制の動向なども整理して、自社の事業戦略を見直していくことが求められます。
その中で、経済学を知っておくと、事業戦略の根拠、理由づけなどを考える時に役立ちます。
そこで、今回は、経済学について少しおさらいしてみましょう。

1. 古典的経済からマルクスまで

人類が他人のモノを欲しがることから始まった経済活動は、物流・交易という行為で貨幣を作り出し、貨幣経済を作り出した。次に、お金を持つことで生産物を扱う資本主義を作り出すという手段が目的化した世界を作り出した。その中で、資本の生産過程で労働力が重要となることをマルクスは考え、結果的に相対的格差が拡大することになり、貧困から反発が生まれ、社会破壊が生まれると指摘した。その極端な現象が戦争であり、革命であり、テロである。それにより、資本主義が崩壊するという。

マルクスの労働価値説では、労働時間が多ければ多いほど剰余価値が高くなるとしています。剰余価値は労働者に支払われる労働コストとなります。資本家と労働者の関係で正規労働者だけが存在している場合、労働者は団結権を主張し、絶対的余剰価値をベースに資本家と対応することができるが、産業の多様化が進んできたことで、準正規労働者や季節雇用などの産業の構造も多様化してきたことで、相対的剰余価値という事態になってきました。また、生産物においてもサービスやソフトウェアやデータなどの相対的剰余価値も増えてきたことで、剰余価値の資本への転化も進んできました。生産工程の一部をロボットで作業をしたら、ロボットは設備コストとして見るので、ロボットの設置コストと稼働コストとメンテナンスコストで計算することになります。設置コストは計画的に減価償却します。稼働コストには、エネルギーコストも含まれます。メンテナンスコストには、清掃作業、点検作業、校正(チューニング)作業などがあります。消耗部品のコストを交換作業としてメンテナンスコストに入れるか、稼働時に消耗しているとして稼働コストに入れるかは、生産する製品の一個当たりのコストを考える時にどう考えるかが決まってきます。

資本主義は、起業の自由をベースに競争を原則とします。その活動では、勝者と敗者の存在を肯定していることから、相対的格差を生み、拡大していきます。拡大したその先には、極少数の裕福者と多数の貧困の格差の社会となり、貧困は、社会反発となり、やがて戦争や革命やテロという社会破壊を起すことになります。
社会を否定する時によく使われるのに原理主義があります。原理主義は、思考に行き詰ると「善」と「悪」、「敵」と「味方」という極端に二分化した問題処理方法にはしります。人間が求める多様性の受け入れや自由は、そこには存在しなくなります。
ベーシックインカムが低い欧州の一部の国の資本主義は、国民の中から、多くのテロ分子を生み出してしまいました。ベーシックインカムが高い国からは、テロ分子は、生まれていないことからもこれは理解できます。しかし、それだけで問題解決しているという訳ではないと思います。ベーシックインカムで最も求められるのは、経済活動に参加できる能力を持たせる教育や訓練を配当することではないでしょうか。つまり、国の収入が増えないのに国の支出を増やすと国は貧乏になっていきます。教育の投資することで、できる仕事のジャンルが増えて、雇用の機会が増えて、個々の生活が成り立ち、国の収入を増やすことにつながることでさらにベーシックインカムを充実させる資金源になる訳ですから。

ベーシックインカム … 政府がすべての国民に対して最低限の生活を送るのに必要とされている額の現金を無条件で定期的に支給するという構想。

資本主義の弊害は、一部のグローバル企業内にも起きています。最初は、起業によって企業活動を展開して、利益を拡大していくことになるが、やがて企業組織を守る思考が強くなり、変化を求めない社会主義化します。それにより、企業利益は既存の事業で作り出そうとしますが、競合との競争市場における優位性が時間の経過とともに失われて行って、価格競争の泥沼に沈んでいき、景気は低下していきます。
そうなると、資金調達の目的で株価を維持するために決算結果を粉飾する行為に走る安易な経営になってしまいます。(やっている本人は、責任を持ってやっているつもりでしょうが、それがある種の病です。)
価格競争に入る事態(デフレーション)というのは、競合との差別がなくなってきたということなので、新しい価値を作り出して、市場での価格維持を展開していかなければならない。ところが、実需要がそこに存在していなければ、新しい価値を作り出しても価格維持は実現できないものです。
つまり、成熟した日本市場では、技術革新が必要であり、グローバルでは国民の就業率が増え、生活水準が向上することが期待できる市場が拡大していくことで、利潤率が増えて、経済が活性化していくことが求められますが、教育や宗教やその国が抱える事情をよく理解した事業戦略でなければなりません。
さらに、新しい市場の創造につながる技術の発展にも投資していくべきで、それには、企業を構成する従業員のスキルアップに投資していくことが重要であると考えます。それがイノベーションです。

2. 景気が悪い時に何をすると良いか。

景気が悪い時に国ができる方法として公共事業という財政政策がありますが、国力の限界がある税収入だけでは難しいので国債を発行することになります。やがて膨大な赤字国債の発行によって国債価値も下がり、資金も集まらなくなり、公共事業もできなくなります。また、デフレーションが進むと税収入が減ることになり、国力は低下していきます。そこで金融政策としての利子率を切り下げることとイノベーションの実践力で景気は好転する動きに転じます。この対策こそ、ケインズが唱えていた景気回復のシナリオであり、米国と日本がとっている政策でもあります。



EUがこの政策を実施するには、EUでの制約事項や参加各国の同時協力が必要となるが、経済構造が国によって違っていることから、いったん不景気になると制御が難しい問題となってきます。

3. イノベーション

経済学者のヨーゼフ・シュンペータは、「市場経済は、イノベーションによって不断に変化している。そして、イノベーションがなければ市場経済は均衡状態に陥っていき、企業利潤は消滅し、利子はゼロになる。したがって、起業者は創造的破壊を起し続けなければ生き残ることができない。」と言っています。
経営学者クレイトン・クリステンセンは、「一見、関係なさそうな事柄を結びつける思考それがイノベーションだ。」と言っている。さらに「イノベーションのジレンマ」として、大企業にとって、新興の事業や技術は、小さく魅力なく映るだけでなく、既存の事業をカニバリズムによって破壊する可能性がある。また、優れた特色を持つ既存の商品を持つがゆえに、その特色を改良することのみに目を奪われ、顧客の別の需要に目が届かない。そのため、大企業は、新興市場への参入が遅れる傾向にあり、既存の商品より劣るが新たな特色を持つ商品を売り出し始めた新興企業に、大きく遅れを取ってしまうのである。と説いています。
さらに、クリステンセンは、優良企業が合理的に判断した結果、破壊的イノベーションの前に参入が遅れる前提を5つの原則に求めています。

  1. 企業は顧客と投資家に資源を依存している。
    既存顧客や短期的利益を求める株主の意向が優先される。
  2. 小規模な市場では大企業の成長ニーズを解決できない。
    イノベーションの初期では、市場規模が小さく、大企業にとっては参入の価値がないように見える。
  3. 存在しない市場は分析できない。
    イノベーションの初期では、不確実性も高く、現存する市場と比較すると、参入の価値がないように見える。
  4. 組織の能力は無能力の決定的要因になる。
    既存事業を営むための能力が高まることで、異なる事業が行えなくなる。
  5. 技術の供給は市場の需要と等しいとは限らない。
    既存技術を高めることと、それに需要があることは関係がない。

まさに、日本企業の多くは、この問題を抱えていないだろうか。

経済を活性化しようとすると“イノベーション”を起して、市場における技術革新を起していくことになります。リップサービスや注目をひくための技術革新ではなくて、世の中に役立つ実践的技術革新です。そして、それは市場を崩壊させ、新たな市場を創造できるものであればあるほど、経済は活性化し、成長します。しかし、ある程度の事業規模を抱えると当事者は極端なイノベーションではなく、抱えた事業規模が成長することを第一に考えてしまいます。ところが、既に需要がそれを飲み込むことができなくなっていることを知ると、グローバル化で市場規模を拡大することになります。既にグローバル化している場合は、市場のボトムアップを図ります。ところがボトムアップには、大きな課題がいくつも出てきます。需要を作り出している要素の欠如です。それは対象となる市場の生活水準と雇用問題です。生活レベルの向上をしていくためには、それに似合った収入が無ければ生活水準は上がっていきません。それは企業の責任ではなくて政治の責任だと割り切れるものでもなく、海外への企業進出での需要を作り出す大きな要素を政策的に作り出すための企業協力が必要となっているのが、今の世界の動きでもあります。しかし、その成長率には限界があります。それを上げるのが教育です。生活水準を上げるには、教育がこれを支えます。つまり、ベーシックインカムの投資先は、福祉や生活保護だけでなく教育投資が重要になってきます。
海外では、“市場拡大”ですが、では、ある程度成長しきった国内市場を活性化して新たな経済成長を作るにはどうしたら良いかというと、“イノベーション技術革新”です。ですから、事業戦略では、成長していない市場と成長しきった市場で選択する事業戦略が違ってきます。

4. 実践的イノベーション

「経済成長を促す“イノベーション”とは、どのようなものか?」という課題を考えるのに、過去の事例として1990年代のSCADA製品の登場がある。Windowsの普及とともにHMI(Human Machine Interface)の製品が登場して、データベースを持つSCADA製品の登場で製造現場の“見える化”をさらに発展させてきた“イノベーション”と言って良いだろう。
“見える化”は、今まで見えなかった課題を見えるようにして問題発見と早期解決を促すツールとしてHMIやSCADAを使うソリューションです。言い換えると、“見える化”は、生産管理、品質管理、故障診断、設備保全などの課題で、問題解決する上で必要な情報を現場から取り出して、オペレータに理解しやすい表現に演算処理して見せる仕組みです。それで、“見える化”“視える化”“診える化”“看える化”“観える化”の五段活用とVECでは言って普及活動を進めてきました。
今は、IoT(Internet of Things)になります。IoTでは狭義のIoTと広義のIoTがあります。
狭義のIoTは公衆回線を使ったインターネットを利用してリモートモニタをすることで、遠隔監視で“遠隔の見える化”を実現し、遠隔操作でリモートサービスを実現する。この場合、セキュリティ対策が必要となる。しかも公衆回線を使用していることでの通信能力の限界は考慮しなければならない。それが初期の“Industry4.0”です。
広義のIoTはクラウドを利用するものであるが、“ビッグデータ処理”や“画像解析処理”、“音解析処理”、“Machine Learning”、“シミュレーション技術”など、パフォーマンスを必要とする問題解決に効果を出すことができる。その結果を現場に活用することで、現場の多様なテーマを必要な時間で解決できるようになる。それには、クラウドと現場のシステムやデバイスをつなげるのに、サイバー攻撃のリスクを受けないで実現させることが求められる。それには公衆回線を使用しないプライベートクラウドが最適である。これが“Industry4.1J”です。重要インフラや重要産業について、“Industry4.1J”を推奨します。
ドイツ政府も、米国政府も、昨年12月の計測展SCF2015の展示会で、このソリューションの重要度を知るところになりました。