2020年 - VECサロン

「中国製造業2025」は、日本企業にとって何を意味するか?

中国製造業2025を美しいユートピアのように美化している経済・金融・企業アナリストがいらっしゃいますが、そのほとんどが中国人なのですね。
中国には「中国国家情報法」という法律があり、国内外の特に海外の中国人は、中国共産党の指示で活動することに拒否権が無いというものですが、その理由で中国製造業2025を美化しているのかどうかは、水面下の機密でしょうから、はっきりしたことは言えません。
中国の主要な法律には、第4条か第6条あたりに、この法律の指示権は中国共産党にあると明確に書かれております。
そうなると、この「中国製造業2025」の本文を読んで、中国共産党の立ち位置で解釈すると、中国は何がしたいのかが見えてくるということになります。

「中国製造業2025」の本文を読んで、調査した結果を平成29年に経済産業省が行っております。
[参考資料]
経済産業省の平成29年度製造基盤技術実態等調査(中国製造業の実態を踏まえた我が国製造業の産業競争力調査):株式会社エイジアム社の調査報告

https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/H29FY/000403.pdf

結論をお話すると、

「中国の企業を世界レベルに」を目標とする10産業

  1. 次世代情報技術
  2. CNC工作機械・ロボット
  3. 航空・宇宙装備
  4. 海洋エンジニアリング・ハイテク船舶
  5. 先進軌道交通設備
  6. 省エネ・新エネ自動車
  7. 電力設備
  8. 農業設備
  9. 新素材
  10. バイオ医薬・高性能医療機器

で、それぞれの分野で世界シェア70%以上を目指しています。
国の政策として自国企業の世界シェアを上げて利益を確保することで税収入が増えることになりますから、当たり前と言えば当たり前の政策と言えます。

そう言っても、2025年はすぐですから、中国はどういう手段を講じてこれを達成しようとしているかですが、平成29年度製造基盤技術実態等調査の「中国製造2025の戦略」に記載されている中でCNC工作機械とロボットについての報告を見てみましょう。

「中国製造2025の戦略」ロボット

中国企業を支援するセンターを創設。
2015年:日本企業とロボット合弁会社2社を広東で設立(産業用、サービスロボット)。
海外のロボット企業を次々と買収

2025年にロボット業界の世界シェア70%を目指す。

つまり、モノづくりで造り出す製品の市場での価値は、製品機能を開発する能力と、顧客が製品に求める品質になるのですが、その製品機能と品質は、生産技術があって市場での価値が決まってきます。ところが製品をまねて作ることはできても、品質価値を維持した生産技術はすぐには手に入りません。そこで、資本提携や企業買収で中国企業にして、世界シェア目標を達成するべく活動しております。

その昔、愛媛県にタオル製造会社がありました(今もあります)。当時、日本政府の方針で、中国にモノづくりを通じて日中国交正常化を推進しようということで、中国にタオルの作り方を教えてもらえないかと言う話があり、「これほど有名になっている」と言わんばかりに中国人を招いて工場を見学させたり、研究させたり、中国に行ってタオルの作り方を指導したりしました。その結果、中国から安いタオルが輸入されて、そのメーカーの売り上げが低くなり、倒産まで行った訳です。
日中国交正常化でタオル産業をはじめ日本国内のいくつかの産業を中国に紹介して協力したことで推進役を担った政治家は、日中関係の政治家として発言権を高めましたが、それに協力した会社は倒産です。その後、再生法で生き返っておりますが、その会社の社員と家族は大変な状況になりました。

中国製造2025の内容を読んでいない経済アナリストや企業経営者は、中国は世界の工場だと信じている方も少なくないです。金融機関のアナリストで中国投資を呼び掛けている人は中国人が多いです。
今の彼らのミッションは、「外資を中国へ呼び込め」であろうと推測されます。
これには、理由があります。
今の中国は、外貨が足りません。2020年1月20日時点で、中国の外貨準備高は、3兆2,342.20億ドルと言われております。この内、アメリカ国債が約1兆1,000億ドルということから、残りの約2兆ドルが預金と証券類ということになります。2018年後半から米中貿易紛争や2019年からの覇権争いで米国を中心とする企業融資が中国から引いていることや、香港紛争で香港の人やカネが中国以外へ逃げていることなどから、その中で預金額はそれほど多く残っていないのではないか? と判断されます。
中国がドルを大量に持っているとしたら、今、人民元が下がっていることからドルを大量に手放して人民元を支える動きをしなければならないのに、それとは逆のドルの放出を押さえる施策を優先していることからも察しがつきます。
そこで、中国共産党は、中国国内外の中国人に、海外企業へ中国への投資を呼び掛けるように指示が出ているのではないか?

そんな中、中国外商投資法 が2019年3月に成立して、2020年1月1日より執行されました。急に切り替えができないので5年間の猶予付きです。

今回の中国外商投資法の主な内容は、

  • 外商投資法9条:企業の発展を支援する各種政策の外商投資企業への平等な適用
  • 外商投資法10条:外商投資の関連法規等の制定にあたっての外商投資企業の意見・提案の聴取
  • 外商投資法11条:外商投資に関するサービス体系の構築・整備およびコンサルティング・サービスの外国投資者・外商投資企業への提供
  • 外商投資法13条:特殊経済区域の設置・試験的政策措置の実施等による外商投資の促進および対外開放の拡大
  • 外商投資法14条:外国投資者による特定業種・分野・地域への投資の奨励・誘致および優遇措置の提供
  • 外商投資法15条:外商投資企業による標準化業務への平等な参加
  • 外商投資法16条:政府調達における外商投資企業および外商投資企業が中国国内において生産した製品、提供するサービスの平等な取扱い
  • 外商投資法17条:外商投資企業による証券の公開発行等による資金調達の是認
  • 外商投資法19条:各人民政府・関連部門による外商投資サービスの向上およびガイドラインの作成等

投資保護については、

  • 外商投資法20条:国は、外商投資に対し収用を行わず、公共の利益のために収用する必要がある場合は、法に定める手続に従い実施し、遅滞なく公平で合理的な補償を与える
  • 外商投資法21条:外国投資者の中国国内における出資、利益、資本収益、ライセンス料等につき、法に基づき人民元または外貨で自由に海外送金することができる
  • 外商投資法22条:外国投資者および外商投資企業の知的財産権を保護し、知的財産権の権利者および関連権利者の合法的権益を保護する。知的財産権の侵害行為については、法に基づき厳格に法律責任を追及する
  • 外商投資法22条:外商投資の過程において、自由意思の原則およびビジネスルールに基づく技術協力の実施を奨励する。技術協力の条件は、各当事者の公平原則に基づく平等な協議により確定する。行政機関およびその職員は、行政手段により技術譲渡を強制してはならない
  • 外商投資法23条:行政機関およびその職員は、職責の履行過程において知得した外国投資者、外商投資企業の営業秘密の秘密を守り、これを漏えいまたは他人に違法に提供してはならない
  • 外商投資法24条:各級人民政府および関連部門の関連法規等により、外商投資企業の合法権益を違法に減損したり、義務を加重したり、市場参入および退出の条件を違法に設置してはならず、外商投資企業の正常な生産経営活動を違法に干渉等してはならない
  • 外商投資法25条:各級人民政府および関連部門は、外国投資者、外商投資企業に対して法に基づいて行った政策上の約束および各種の契約を履行しなければならず、国・社会公共の利益のためにこれらの約定を変更する必要がある場合は、法定の権限および手続に従って行い、かつ、外国投資者、外商投資企業に対して損失を補償しなければならない
  • 外商投資法26条:国は、外商投資企業の苦情申立の処理の仕組みを構築し、外商投資企業またはその投資者から報告される問題を遅滞なく処理し、関連政策措置を調整・整備する

など、 中国は、海外の投資を沢山して欲しいので、 一見良さそうに見えます。

では、実際運用上は、どうなっていくのかですか? ですが、

例えば、

  • 中国企業の利益が出て、その配当金を日本本国へ配当送金しようとすると、期の中途で税の未納状態で送金は禁止されていますからできません。
  • 期が終わって売り上げ利益や配当金を日本本国に送金しようとすると、中国内での借金や源泉徴収税(10%)などの支払いが済んでいなければできません。
  • 中国法人の定款に書かれていないことや最高決定権を持つ例えば株主総会や取締役会の決定なくして、送金はできません。
  • 共同出資の中国の会社が認めない場合、日本本国への送金ができません。(これが一番大きい弊害です。)

というように、中国企業保護の法的手法を残しております。
資本撤退での送金も同じで、実際、返還はできない運用になります。
よっぽど相手の中国法人企業経営者が国際的感覚で対応してくれればの話ですが、その動きには中国共産党が「待った」をかけてきます。

中国の法律には必ず、中国共産党に運営権限があり、その指示に中国法人及び中国人は従わなければならない。という中国国家情報法などがあります。

中国では、中国国家安全法と国家情報法が、上の法律で優先され、中国外商投資法 はその下です。

中国側の政策としては、

中国撤退企業への足枷

  • 中国内にある外資系企業撤退に、今までの優遇コストを請求
  • 今までの税金控除分回収

米国に同調していない国への投資・支援強化

  • 5G技術でドイツ、フランス、など5G技術を開発できない国へ
  • COVID-19禍対策支援を持って、イタリアやスペインへ

サイバー攻撃

  • 標的
    - 医薬品開発研究所
    - 防衛関連企業

中国への請求

  • 米国各州とインドが中国へ新型コロナ被害の損害賠償請求
  • 赤十字社が医療機関へのサイバー攻撃をしないようお願いを公開

中国への対抗処置

  • 米とパートナー国
    - 日米デジタル貿易協定
  • 米国の半導体製造装置で生産した半導体製品は中国企業へ販売してはならない

米中:中国から撤退する企業

中国にサプライチェーンを集中させたリスク

  • 新型コロナ禍の中国政策でサプライチェーンが止まる
  • サプライチェーンが止まると生産ができなくなって売り上げが確保できなくなる

サプライチェーンのリスク分散

  • 日本政府の支援金総額2435億円を利用して
    - サプライチェーンを国内確保
    - 東南アジアやオセアニアへ工場を移転

中国の香港政策「香港国家安全維持法」制定

  • 米国は、香港における株や債券、金融取引、国際銀行間通信協会(SWIFT)に関する、関税、輸出制限、投資制限まで踏み込む?
  • 香港から外貨を手に入れている中国は、外貨が入手できなくなる

米国政府の中国政策

  • 米国メーカーの装置で生産した半導体製品は、中国企業へ供給を禁止
    - 対象企業は、ファーウェイ、ZTE
  • 米国が台湾のTSMCのアリゾナ工場に支援
    TSMCは、線幅3nmの半導体製品を生産できる(線幅1nmの製造技術を研究中)

ここへきて、中国は、「香港国家安全維持法」の執行を直ちに行ったわけで、これに、米国政府は、今までの香港への優遇措置を撤回する動きになっております。
それは何を意味するかと言うと、中国元を国際通貨レートとしてドルに変換しようとしてもできなくなる。それは、国際通貨のドル変換ができなくなる。更に中国元は国際通貨価値が下がってしまいます。

2008年のリーマンショックを回復させるのに中国が世界の工場だという売り込みもあって回復政策が取られましたが、2020年の新型コロナ禍での世界経済不況を回復させるには、日本国内もそうですが、欧米市場と東南アジア、インド市場の経済回復が要です。